
職場での注意指導がパワーハラスメントに該当する場合はあるの?
職場では、状況によって上司が部下に対して厳しく注意指導することもありますが、こういった注意指導が「パワーハラスメント」に該当して、会社や上司等が 法的責任を負うことがあるのか?今回は裁判例をもとに見ていきます。
裁判例の結論を先に言います
今回ご紹介する裁判例では、会社と指導した上司が連帯して損害賠償15万円の支払を行うよう判例が下されました。
誤解のないように言いますが、
「上司が部下を注意指導すること自体は違法ではありません」
・・・
ただ、その注意指導も内容によっては損害賠償金を支払わないといけないケースもあります。ポイントは、注意指導の「目的」と「態様」(状況/状態など)です。
部下への嫌がらせを目的にしたものや社会通念に照らしてやり過ぎの指導は、当然に❌です。ちなみに、社会通念は「令和」の今の時代に合わせての感覚でお願いします。
ハラスメントには注意すべきですが指導を恐れないで
今の時代、とても難しいと感じるのはハラスメントを恐れて注意指導する側がビクビク・ヒヤヒヤの傾向が少なからずあること。
昭和の時代に普通に行なっていた指導が、令和の時代では違法とされる可能性を秘めているのですから、致し方ないのですが・・。
とは言え、注意指導は必要な時には適切に行うことが従業員の成長につながると考えます。
注意し続けても改善されないときは苛立つこともあるでしょう。(上司も人間です)
そんな時は、6秒間深呼吸して(感情が落ち着いてくるアンガーマネジメントの考えです。)
再チャレンジです。
なお、今までハラスメントの身近な話や事例をみてきて感じることですが、ハラスメントに気をつけようと思っている方は、大抵は大丈夫だと思っています。逆に無自覚なハラスメントの方が危険かなと感じるところです。
後一つは、「何を言うか」も大事ですが、「誰が言うか」ももっと大事だということ。
ハラスメントは、お互いの信頼がどれだけ積み重ねられているかも影響してくると考えます。
「上司の注意指導等とパワーハラスメント」 ― 東芝府中工場事件
前置きが長くなりましたが、裁判例をご紹介していきます。
事案の概要
製造業A社の工場にXが勤務していたところ、製造長の上司Bが次の①、②などのように各々注意指導を行いました。
同注意指導に対し、Xは「上司Bの常軌を逸した言動により人格権を侵害された」と主張し、A社及び上司Bに対し民事上の損害賠償請求を提起した事案
① Xは使用していたエアーグラインダーを収納せず、さらに電気溶接機の電源を切らない危険な状態のまま放置して退社したところ、上司Bは安全衛生の観点 から、これを注意し、反省書の提出を求めた。またXはボール盤を使用した穴あけ作業を行っていた際、回転中のドリルの下に手を入れることを繰り返していた。これに対し現場で再三注意を受けたにもかかわらず改善がみられなかったため、上司Bが反省書の提出を求めた。
②Xは事務員の伝言を通じて、電話で年休申請を行おうとしたが、上司Bは、年休申請は上司に対し直接行うものと考えており、Xに対し反省書の提出を求めた。またXが終業時間前に早々と作業を切り上げ、片付けを行うことがあったが、上司BはXの勤務態度が他の社員に対して悪い影響を与える恐れがあるとし、 Xに片付けを再現させ、その時間等を計るなど求めた。なお年休申請においては、他の社員も同様に電話で事務員に伝言する方法をもって行うことがあった。
出典:厚生労働省の「あかるい職場応援団」
判決内容の要約
◎上司の指導監督の違法性
一般論として、
- (上司には)その所属の従業員を指導し監督する権限がある。
- その指導監督のため、必要に応じて従業員を叱責したりすること自体の違法性はない。
- ただ、(上司の)行為が権限の範囲を逸脱したり合理性がないなど、裁量権の濫用にわたる場合は、そのような行為が違法性を有するものと解すべき。
今回の裁判の場合
- ①の注意指導→裁量権の濫用が認められず、合理性あり
- ②の注意指導→正当性の目的は認めるが、その態様について「渋るXに対し、休暇を取る際の電話のかけ方の如き申告手続上の軽微な過誤について、執拗に反省書等を作成するよう求めたり、後片付けの行為を再現するよう求めたBの行為は、Bの一連の指導に対するXの誠意の感じられない対応に誘引された苛立ちに因るものと解されるが、いささか感情に走りすぎた嫌いのあることは否めず・・製造長としての従業員に対する指導監督権の行使としては、その裁量の範囲を逸脱し、違法性を帯びるに至るものと言わざるを得ない」とした。

従業員側の不誠実な対応はどう判断される?
この判例では、会社と上司Bの連帯での賠償金支払が言い渡されましたが、そもそも従業員側の不誠実な対応は考慮してくれないの?・・と言いたくなるもの。この点は、以下のような判示があり、損害賠償額の調整に影響しています。
(要旨)
- 責任を考慮するに際しては、X側の事情を斟酌すべき。
- Xは労働者として仕事に対し真摯な態度で臨んでいるとは言いがたいところがみられた。
- 上司Bの叱責に対して真面目な応答をしなかったり、不誠実な態度も見られた。
結果、上司Bの過度の叱責や執拗な追及をX自ら招いた面もあることが否定できない。ちゃんと「過程」もみて判断される点が上記の注目すべきポイントです。

会社で対応する際の参考に
ハラスメントに関し、どういった対応をすれば良いのか?参考になるものはないか?というご相談を受けることもあります。
そこで、厚生労働省の「あかるい職場応援団」のサイトをご紹介いたします。
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp
今回の裁判例もそうですが、研修動画も紹介されているので、ハラスメント対策を考えている場合は、参考にしてください。